|
John Dickson Carr |
|
The Emperor's Snuff-Box 1942 |
|
『皇帝の 嗅ぎ煙草入れ』 井上一夫 訳 創元推理文庫 1961 |
|
|
|
内容紹介 |
|||
|
|
向かいのロウズ家の息子トビーとの再婚を控えたイヴ・ニール。その寝室に前夫ネッド・アトウッドが押し掛けます。開いた窓の向こうではが、
ロウズ氏がかぎ煙草入れを観察している姿が。やがて彼は殺され、茶色の手袋の男が部屋を出て行きます。死体が発見され騒ぎが起こると、イヴはネッドを追い出しますが、ネッドは階段から転落して鼻血を出し、それがイヴの手に。一夜明けると、あらゆる嫌疑がイヴが向けられていました。潔白を証明してくれるネッドは脳震盪を起こして入院しています。 |
||
|
解 説 |
|||
|
|
サスペンス・ドラマとして見ても、ラヴ・ロマンスとしても一級品ですが、極めつけは心理トリックです。江戸川乱歩はこれを「少々苦しい手段」、「悪く言えばごまかし」、「手品趣味」と言っていますが、全くの的外れ。現実によく起こる現象を利用したものであり、これがあるから捜査段階では証言に気をつけねばならず、また法廷で重要証言がひっくり返されることがあるのです。
これがごまかしでなく、フェア・プレイであることは、その手掛かりがいくつも提示されていることでわかります。さりげなく、そして惜しみなく手掛かりを曝け出すのがカーの優れたところであり、乱歩が及びもつかないところです。 |
||
|
注 釈 |
|||
|
|
かぎ煙草入れ (Snuff-Box) |
||
|
|
|
かぎ煙草は鼻孔に詰めて楽しむ煙草で、かぎ煙草入れはその容器です。シャーロック・ホームズはボヘミア王から宝石付きのものを貰いますし、リチャード・クィーン警視はヨーロッパで買ったものを大事にしています。 |
|
|
|
サラダ籠とバイオリン (salad basket & violin) 106頁 |
||
|
|
|
いずれもフランス語を英語で言い換えたものです。panier a saladeは野菜の水切りに使う蓋付きのザルで、網目で覆われているところから囚人護送車と呼ばれるのでしょう。violonは小さな穴が開いているだけなので留置場の意味に使われるのでしょうか。 |
|
|
|
石炭酸 (creosote) 169頁 |
||
|
|
|
クレオソートのことで木材を乾留して出てくる油分です。クレゾールを含み、独特の臭気と強力な殺菌力があります。かつては病院の臭いと言われましたが。もちろん、ここでも消毒に使った後の臭いでしょう。、 |
|
|
|
しもた屋 (private house) 171頁 |
||
|
|
|
しもうた屋またはしもた屋とは「もと商家であったが、その商売をやめた家。金利や資財の利潤で裕福に暮している人、またはそういう家。転じて、商店でない、普通の家。」(広辞苑) 最後のところは不正確ですが、商店が並んでいる中で商売をしていない家、あるいは商店風だが住居というところです。、 |
|
|
|
彼女を見なおした (seeing her in a new light) 198頁 |
||
|
|
|
ひとを「見なおす」というと気が付かなかった長所を見つけた場合で、その逆は「見損なっていた」と過去形で言います。ここはニュートラルで、気が付かなかった一面に気づいたといういうだけ。 |
|
|
|
トビーの性格 283頁 |
||
|
|
|
今風に言えば「ジコチュー」です。多くなりましたね、こういう人。しかも、トビーの場合、自分の身勝手を基準にして人や物事を判断しますからよけい手に負えません。 |
|
|
|
ゴロン氏の見たもの 290頁 |
||
|
|
|
曖昧に表現するのが小説技法のひとつです。288頁末尾の「「もうちょっと、こっちにおよりになりません?」というイヴの言葉が伏線です。ゴロン氏はフランス人ですから、他人のラブ・ロマンスには思いやりがあります。 |
|
|
|
|
|
|