採桑老図 絵馬修復




修復前の採桑老図絵馬
採桑老図絵馬 修復前

 佐賀県の佐嘉神社、松原神社に伝わる絵馬です。長年、絵馬殿に掛けられ ていて、雨は凌げるものの文字通りの風による風化で、たいそう傷んでいます。 しかしながら全体のシルエットはほぼ残っているので、丹念に調べてゆけば、何 とか修復できそうです。
 幸いなことに一目見て、この図柄が「採桑老(さいしょうろう)」であることが分り ました。 舞楽の一つで舞いそのものは早くに途絶えて伝わっていませんが、面 や装束、絵などは残っています。 仙薬を求めて山野を巡る老翁の姿を舞にし たといわれています。
 この絵馬にも翁の面、鳩の飾りの着いた杖、薬袋などが描かれていて、採桑 老であることには間違いが無いようです。 

さてこれから細部を見てゆきたいと思います。  大 きな絵馬で一畳ほど(寸法 171.5p×107.5p)あり ます。 地の部分の風化が最も進み、木目が現れて います。縁を見ると元は平で金箔を貼っていたこと がうかがえる痕跡があります。
また「慶応三年云々・・」という文字の痕跡も見つか りました。たぶん奉納された時期でしょう。 他に「従 四位下・・」という文字も確認できました。幕末の頃、 身分の高い方の奉納らしいことがうかがえます。
従四位下

従四位下の 痕跡
慶応三年

慶応三年 の痕跡

 衣裳は全体にくすんだ緑色に見えています。胡粉(ごふん)の変色と細かいひ び割れに入り込んだ汚れで、こういう風な色合いになったようです。 襟元と袖 口には下重ねの衣が見えています。
翁の面を付け、頭巾をかぶり、鳩杖を持ち腰に薬袋と短刀を帯びています。
鳩杖と顔の周辺 薬袋と鞘
 頭巾には唐草模様らしきものが描かれており、面の紐の結び目には笹の葉 飾りがついています。襟は黒く見えていますが、朱が変色したようです。金で菱 形の模様も描かれています。 衣裳にも有職の織綾紋らしい丸い大きな模様が 描かれています。 袴の方には模様らしき物は描かれていないようです。
 鳩は輪郭は分かりますが顔や羽、足などの細部は完全に消えてしまっていま す。 薬袋や鞘は色や模様も少し残っています。

 以上のように細部を検討して元の姿を推定してゆきます。
一番大きな要素を占める衣裳の地色ですが、現存する実際の装束や絵画資料 で見る限りほとんど白ですので、この絵馬の場合も元は白で、緑がかった色は 風化変色によるものであろうと判断しました。 衣裳の模様も銀で描かれたもの が黒く変色しているようです。襟元と袖口から覗く衣は朱色の地に金の菱模様。 (くつ)は黒。その他、鞘、杖も黒、面、薬袋の紐、沓の縁飾りは朱のようで す。

 この後実際の作業に取り掛かるわけですが、現時点のイメージからかなり変 わることが予想されるので、修復のための下図を描き、更に頭部の習作も描い て、確認作業をしっかりとしておきます。 作業工程は膨大で微細にわたるので 略しますが、
こうして修復完了したのが下の作品です。


修復後の採桑老図絵馬
採桑老図絵馬 修復後



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