As usual




「なんだかサラ、ここに来るときいつもすごく楽しそう……」
「そう?私には八雲の方が楽しみにしてるように見えるんだけどな」
「そんなことない、と思うんだけど……」
 そう見えるかな、小声で訊く八雲に、私にはね、と悪戯っぽく答えるサラ。
 二人が訪れているのは休日の動物園。気候が穏やかになった秋、ということもあり、なかなかのにぎわいを見せている。
 サラに言わせるとデート、ということなのだが、女の子二人でそれは違うんじゃないかな、と思っている八雲。ちなみにそう言ってみたところ、私は八雲のこと大好きだよ、などとあっさり返されてしまっている。
 もちろん八雲もサラが嫌い、などということは全くなく、この時間を楽しみにしていることに違いはない。ただ、彼女にはもう一つ思うところがあって――
「あ、いたいた。せんぱーい!」
 サラの声にのそっとこちらを向き、ん、と片手を挙げて応えるのは播磨。思い入れのある仲間たち、その顔を見る散歩はまだまだ継続中である。
「久しぶり……でもねえな」
 つーかよく会うよな、俺たちココで、と疑問符の播磨を、偶然ですよ偶然、と受け流すサラ。異国の地で暮らすと人の扱いも上手くなる……とはどこかの帰国子女を見ると一概には言えないところ。
「そうか、まあ別に二人なら構わねェけどな。それに比べて俺のクラスの連中はこう、やたらとアグレッシブだからな……」
 珍しく人前でぼやくその表情は、なかなか深刻そうな様子。確かに彼の周りにはよく言えば個性的、悪く言えば我の強い女性陣がそろっている。
「そうですね、姉さんも」
「ああいやいやいやいや、お姉さんはそんなことないぜ。うん。むしろだいかんげ……」
 八雲の呟きを遮るようにして、フォローだかなんだかよく分からないことを言いかけた播磨だったが、その様子をくすくすと笑いながら見ているサラに気がついて途中でやめる。
「あー……スマン」
「そんな、謝るようなことじゃ……」
 こういう場合にほかに思いつかない播磨、ぺこりと頭を下げるのだが、それに八雲も慌ててしまい、二人してぺこぺことお辞儀をしている。
「二人とも、周りを見た方がいいですよ」
 苦笑めいた顔のサラに二人が周囲を見回せば。
「ぐ……」
「あ……」
 辺りの視線の中心部にいるのは当然ながら自分たちなワケで。
「場所、変えましょうか?」
 その提案にもこくこくこく、と二人して頷く。それがどこか和やかな空気を呼んだりして、両親に連れられた子供が手を振ったりしてくる。
「「……」」
 照れたような表情でそそくさと歩き出す二人と、こちらは笑顔でその後に続くサラ。傍目に見れば、やはり微笑ましい光景である。





 ともあれそこから遠ざかることしばらく、空いているベンチを見つけて三人で腰をおろす。
「やれやれだぜ……」
「……ふう」
 疲れ気味のその顔に、飲み物買ってきますね、とサラが立ち上がる。
「いや、俺が……」
「気にしないで下さい、先輩。たまにはおごらせてもらいます」
 それに、とここから先は声ではなく目で話す。
(月末ですから、ね)
(……スマン)
 そんなアイコンタクトには気がつかず、自分も、とサイフを取り出そうとしていた八雲だったが、いいからいいから、といつものようにサラに押し切られる恰好。
「それじゃ行ってきますね」
 ごゆっくり、と言い残して売店へと向かうサラ。
 残された播磨と八雲。
「……」
「……」
(どうしていつもこうなんだろう……)
 決して播磨のことは嫌いではないし、頼りになるいい人だと思っている。けれど、いざ話すとなると何を話していいか分からない。そんな自分を少し情けなく思う八雲。
「……サラってすごいな、そう思うんです」
 そして呟いたのは、友人の名だった。
「いつも待ってるだけの私をいろんな所に連れて行ってくれて、いろんなものを見せてくれて」
 心の中にあったものを言葉にしていく八雲。
「羨ましい、と思うんです。サラは私よりずっと、ずっと……」
「俺はな」
 黙って聞いていた播磨が口を開く。
「八雲ちゃんがダメなヤツだなんて思わないぜ、全然」
「え……」
「確かにちっとばかし消極的だ、とは思う。でもな、それだけだろ?」
 なんてことはない、という口振り。
「なんだかんだ言ってもやっぱり向き不向きがあるんだよ、人にゃ。俺が真人間になる、とかな」
 その言葉にくすりと笑みがこぼれる八雲。それを確認して播磨は続ける。
「全部一度になんてそりゃ無理だ。出来るところから変えていけばいい。それにな」
 一旦言葉を切る。
「変わりたいと思ってるなら絶対変われると思ってる、俺は」
「播磨さん……」
「――なんてのが言えたらいいんだけどな。悪ぃ、受け売りなんだよコレ」
 誰の、という表情の八雲に、あまり見せない穏やかな表情で答える播磨。
「サラの、だ。もちろん俺も同じ意見だけどな」
「――――!」
「いやな、私が言うより先輩が言った方がいいんです、こういうことは、とか言われてな……」
 どういうわけか断れねェんだよな、と呟きつつ、さすがに恥ずかしかったのかぽりぽりと頭をかきながら明後日の方を向いている播磨。
「機会があったら、ってことだったんでな。まあちょうどいいか、と……」
「そう、ですか……」
(あー、らしくねえな、やっぱりこういうのは)
 そうぼやく横顔は口を真一文字に結んで決めようとしているけれど、隣の八雲には真っ赤に見え――
(――――――え?)
 口を真一文字に結んで。
 播磨は喋っていない。
 それはつまり――
「お待たせっ……と、もしかしてタイミング間違えたかな……」
 赤くなっている播磨とその顔を見つめる八雲。
 確かに見ようによってはいろいろと考えられる状況。
「別になんでもないぜ。……なあ?」
「はい……」
 その顔で言われても説得力ないですよ、と言うサラにいやだから、と食い下がる播磨。それが逆にサラに食いつかれることとなり……
(これが楽しみだから)
 それを見ながらあらためて思う八雲。
 この三人の――もちろんもっと増えたっていいと思う――時間こそ、自分が大切にしているものだ、と。
 そんなことを思いながら空を見上げる。
 やりこめられた播磨の唸るような声、そしてサラの笑い声が秋晴れの空に吸い込まれていく。
 どこまでも高いその空の下で、その会話に加わろうと八雲も口を開いた――――





 帰り道。
「それで、八雲」
「……何?」
「先輩と何を話してたのかな、って」
「……」
「やーくーもっ」
「……秘密」