Carnival eve
「なんかさ、微妙に納得いかないんだよね」
むすっとした顔でぼやく舞。
「……花井君のこと?」
つむぎの問いに、そ、と素っ気なく答えたの視線の先では、鬼気迫る形相でサバイバルゲームのルールを睨んでいる花井の姿。どうやら完全に持ち直したようである。もっとも、それが一時的なものかどうかはこの先まだまだ分からないわけなのだが。
「そりゃずーっとあのままいられても困るけど、こうもあっさり立ち直ってくれちゃうと、ね」
私が言っても全然だったのに、とそのぼやきは止まらない。
「いいじゃない、あれなら仕事もやってくれそうだし」
「『任せておきたまえ!』、とか言って全部持ってっちゃったけどね、仕事」
はあ、と溜息。
「普通は楽が出来て喜ぶところだと思うけど……仕事好きだもんね、舞ちゃん」
「別に好きっていうわけじゃないよ。ただ、目の前にやることがあって、誰もそれをしないんだったらやるしかないでしょ?」
何でもないことのようにそう言ってのける舞に、それが好きっていうことじゃないかな、と思うつむぎだったが、あえて何も言わない。
「それじゃ、そんな舞ちゃんにお仕事を」
代わりにそう口を開く。
「仕事?」
「そう、どっちに転んでもいいように両方の下準備。お芝居でも喫茶店でも、高野さんがいろいろ考えてるみたいだし、出来ることはあるんじゃないかな」
「……そっか。そうよね、私は私に出来ること、か」
ありがと、と笑顔で言って、晶の方にぱたぱたと駆けていく舞。どうやらもう大丈夫らしい、とその後ろ姿にほっと一息ついていると。
カシャリ。
「え?」
「いや、いい顔してたからさ」
シャッター音を響かせたのは、あはは、と笑う冬木。もう、と一応怒ったポーズをみせるつむぎだが、普段の彼の素行からこの程度はもはや慣れに近いものになっている。
「現像したらちゃんと渡すよ」
「はあ……ありがとう、って言うべきなの? こういう場合」
「それはお任せ。でもさ、いい顔してたってのは本当だって」
「はいはい、それじゃ期待してます」
任しといて、と言いながら、次なる被写体を求めて去っていく冬木。どこか、もう文化祭が始まっているような、そんなお祭りめいた空気に、一人微笑むつむぎ。見回せば、皆それぞれがそれぞれに動き始め、耳を澄ませば 校内のざわめきさえ聞こえてくる気がする。
「ねー、つむぎ、ちょっと来てー」
見れば、舞が手招きして呼んでいる。
「うん、今行くよ」
それじゃ、私も自分のやることを。
心の中でそう呟いて歩き出すつむぎ。
――文化祭準備期間、既に祭は始まっている。