Days




「八雲、明日時間ある?」
「大丈夫だけど……」
「よかった。それじゃお花見に行かない?」
「え……?でもこのあいだみんなで……」
「うん、だから今度は二人で。どうかな」


 ――と、言うわけで。
 教会近くの公園に来ている八雲とサラ。一週間ほど前までは花見に訪れる人が耐えなかったものだが、花が散り始めた今はずいぶんとその数を減らしている。
「ここがいいかな」
 サラがそう言って腰掛けたのは、公園の片隅にひっそりと設置してあるベンチ。そこかしこに桜が植えられている都合上、出来るだけ人が少ないところを、という選択らしい。
 そんなサラの隣に腰掛けた八雲、彼女が何を言うでもなく桜を見上げているのを見て、同じようにしてそれを見上げる。
 盛りを過ぎた桜は、風に吹かれるでもなくその花を静かに散らしている。
「……」
「……」
 しばらくそのまま静かに桜を見上げた後で、サラが口を開く。
「この間ね、たまたま帰り道に見て思ったんだ。桜って散るために咲いてるのかな、なんて」
「散るために……?」
「うん。だってキレイだと思わない?これ」
 満開のときとはちょっと違うと思うけど、というその言葉に、改めて桜を見上げる八雲。視界の中では、はらはらと舞い落ちる雪のような白。地面を覆い尽くすほどの花が既に散っているというのに、それが途切れることはない。
「……そうだね」
 見れば見るほど、ただの公園がどこか違う世界のように彩られているその光景に頷く八雲に、言葉を続けるサラ。
「それにね、もう枝に新しい芽が出てるんだ。これを見ちゃうと、今度はまた来年咲くために散ってるのかな、なんて思っちゃうし」
 不思議だね、桜って。そう言って笑う。
「向こうじゃあんまり見ないから、こういうのすごく素敵だなって。それでね」
 そこでちょっと言葉切って、少し恥ずかしそうにしてから続ける。
「だから八雲と一緒に見たいかな……って」
 ごめんね、付き合わせちゃって。そう小さく頭を下げる。
「ううん、そんなことないよ。素敵だと思う、私も……」
 初めて桜を見たときのことを思い出しながら返事をする八雲。年を重ねるごとにそれは当たり前の光景になっていって、あの頃の気持ちを忘れていったことを思い出す。
「よかった。迷惑だった、なんて言われたらどうしようかと思っちゃった」
 冗談めかして言って、舌を出してくすりと笑うサラにつられて八雲も微笑む。
 そして、またそのまま静かに桜を見上げる二人。
 静寂の中、夏のそれにはまだ低く、けれど冬のそれよりは高い空を背に舞い落ちる桜。
 緩やかに時間だけが流れていく。
「――八雲?」
 どのくらいそうしていたか、いつのまにか自分の肩に身を預けるような格好になっている八雲に気がつき、声をかけるサラ。
「……八雲らしいね、ホントに」
 すっかり寝入ってしまっているその姿に、優しげな笑みを浮かべる。
「伊織もそう思うよね?」
 いつのまにやらそこにいて、同意を求められた黒猫は、いつも通りの無愛想な様子でちらとサラの方を向いてから――
「――あ」
 その膝の上に飛び乗ると、そこが自分の場所だと言わんばかりに丸くなる。
「初めてだね、触らせてくれたの」
 言いながら背中をなでるその手にも嫌がる素振り一つ見せない伊織。本当に眠ってしまったのか、それともただの狸寝入りか。
「どっちでもいい、か」
 陽溜りの中、こうしているのはなんだかとても幸せな気分がして、微笑むサラ。
「うん、来てよかったな」
 その呟きを包み込むように。
 穏やかな春の風に吹かれて、白い花が緩やかに青空を舞った。