My best friend




「実際のところ、どう思われているんだろうか、僕は」
 物憂げな表情でぽつりと呟く花井。そんなに心配しなくても大丈夫ですよ、とサラがフォローする。
 それでも、はあ、と溜息をつく姿に、見ている方は笑みがこぼれてしまう。
 茶道部部室。今日も今日とて花井は八雲の姿を求めて訪れていたが、またしても『運悪く』空振りの様子。本当に運悪くなのか、は……言うまでもない。
「そう簡単に了承してもらえるとは思ってはいないが、避けられているような気がするのだよ、やはり」
「うーん、八雲は男の人わりと苦手ですから……」
 その言葉にそれ見たことか、とまたどんより落ち込んでいく花井。
「でも苦手、っていうだけですよ?」
「……うん?」
「嫌いだって言ってるわけじゃありませんから。八雲はちょっと人より苦手なことが多いかもしれませんけど、誰よりいろんなものを好きになろうとしてるんじゃないかな、なんて思うんです」
 楽しそうに、そして羨ましげに話すサラ。
「毎日会ってると分かりますよ、八雲がだんだん変わっていくの。もちろん八雲は八雲で変わらないところもあるんですけど……なんて言ったらいいのかな、そう、素敵なんです、すごく」
「君のような友人がいて、塚本君も幸せだな」
 サラにつられるような形で微笑を浮かべる花井。
「私もですよ。八雲は自慢の親友ですから」
 くすりと笑うサラ。
「だが……やはりこの気持ちを受け取ってもらうのは一苦労だろうな」
 口振りこそ悩んでいるようだが、その表情はもう吹っ切れた様子。
「その辺りは先輩の心がけ次第、じゃないですか?」
 まったくだ、と今度は二人で笑いあう。
「でも先輩ならいつか届くかもしれませんよ」
「ありがとう、と言いたいところだが、本当にそう思うのかい?」
 冗談めかして聞き返した花井に、あくまで『かも』ですよ、と釘を刺してから答えるサラ。
「だって一生懸命じゃないですか。少なくとも私が見ているかぎり、先輩の八雲への気持ちは裏表も何もなしのひたすらまっすぐ、です」
 ちょっとアプローチは強引ですけどね、という一言に、ぐっ、と呻く花井。
「冗談でもなんでもない、本当の気持ち。そういうのって届くものですよ、きっと」
 それに、と続ける。
「一生懸命な人、私も好きですから」
 さらりとそう言って微笑むサラ。
「そうか……うむ」
 ありがとう、とこちらはちょっと気恥ずかしげな花井。
「見てる人はいつだっているものですよ。先輩の近くにもいるんじゃないですか?そういう人」
「そうだな……」
 その言葉に花井は一人の幼馴染みの姿を思い浮かべる。
(ミコちゃん、か……)
 なんだかんだと言いながら、つかず離れずの距離にいつもいてくれる人。もしかすると、自分にとって一番の親友とは彼女のことかもしれない、と思う。
「大切にしないとダメですよ、そういう人」
「いや、大切にとかそういう関係では……」
「……本当ですか?」
「……むう」
「セ、ン、パイ?」
「分かった分かった。僕の負けだ、もう勘弁してくれ」
 そんなお芝居のような一幕の後で、どちらともなく笑い出す二人。
「さて、それでは僕はこの辺でおいとまするとしよう」
「珍しいですね。もうすぐ八雲も帰ってくると思うんですけど……」
 だからだよ、と立ち上がる花井。
「あんな話を聞いた後だ。せっかくの二人の時間を邪魔するわけにもいくまい?」
「先輩……」
 ではまたくるよ、とドアを開ける。
 そこに。
「あ……」
「おや、塚本君じゃないか!」
 先ほどまでとはうって変わって、普段のアタックモードに戻る花井。
「今日は実に運がいい!さあ一緒にお茶でも!」
(今日は実に運がいい!さあ一緒にお茶でも!)
 いつものように裏表ない『声』を聞き取る八雲。
 けれど。
「……と、言いたいところなのだがね」
「……え?」
 『声』はそこで止まったけれど、現実の花井の声はまだ続いている。
「急用が入ってしまってね。いや残念だよ」
「そうですか……」
「まあ、機会などいくらでもあるだろうしね。それではまた会おう!」
「……はい、また来て下さい」
 その言葉にうむ、と笑顔で頷くと、花井はその場を立ち去っていった。
「よかったの?八雲。また、なんて言って」
 ちょっと意地悪な様子で尋ねるサラに。
「……うん」
 花井先輩、悪い人じゃないから、と。
 八雲は笑顔で答えた。