Merry Christmas
クリスマスイブ、と言えばパーティーである。
短絡的と言えば短絡的ではあるものの、選択肢として間違ったものではない。
と、言うわけで。
塚本家を会場に、いつもの面々でクリスマスパーティー――発案・天満(無計画)、企画立案・八雲――が開かれたのだった。
こんな時でもカレーを食べに出かけてしまう烏丸くんを除き、奈良くんから果ては絃子まで参加したパーティーは、多少のハプニングを交えつつも盛大な盛り上がりを見せ、無事終了した。
「それじゃみんな、またね〜」
「それでは……」
ノリノリのサンタコスの天満と、こちらは恥ずかしげにやはりサンタコスの八雲に見送られて暇を告げる面々。最初は二桁を超える一団だったが、道すがら人数は減っていき、そして――
「……」
「……」
播磨は沢近と二人で歩いていた。絃子はと言えば、
『ちょっと用事があるのでな。ではよろしくやりたまえ、拳児君』
と、早々に姿を消している。ちなみに従姉弟という関係もばらされてしまっていたりして、ちょっぴり頭の痛い拳児君。
「……」
「……」
そして妙に気まずい。双方共にその理由は異なっているのだが、普段とは違うその微妙な距離感に手を出しあぐねている感じである。
そうやって二人黙々と歩いたままだったのだが。
「……あ」
「……お」
同時に息を呑むこととなった。
雪、である。
お話や歌で語り尽くされたホワイト・クリスマス。実際言うほどこの時期に雪が舞うことは多くないのだが、今年はどうやらその数少ない当たり年だったらしい。
「……」
「……」
先ほどとは違う静寂の中、空を見上げる。見かけによらず、と言っては失礼だが、こういうものに弱い二人だった。
(コイツもこんな顔するんだな)
何気なく隣を見てそう思う播磨。彼の中では『触るな危険・寄るな危険・とにかく危険』となかなか類を見ない評価の沢近、意外な一面、といったところである。
「おい、そろそろ行くぞ」
「……あ、うん」
とは言え、この寒さの中いつまでもそうしているわけにもいかない、また歩き始める二人。雪は止む気配を見せず、ただしんしんと降り積もる。
(そう言えば、コイツんちはけっこう遠いんだっけか)
以前成り行きで途中まで送ったことのあった播磨は、ふとそんなことを思い出した。
(どうすっかなあ……)
そんなことを考えているうちに、
「播磨君の家、ここじゃないの?」
何故そんなことを知っているかは……いろいろあるのだ、彼女にも。
「ん?ああ、そうだ」
いつの間にか家までたどり着いていたらしい。それじゃ、と当然のように帰ろうとする沢近。
(まあ、しゃーないよな。この場合)
「待てよ」
その背中に声をかける播磨。
「送ってってやるよ、ちょっと待ってろ」
え、という沢近の反応を気にも留めず、とりあえず傘はいるよな、と家の中に取りに入る。
「……で、なんで絃子のしかねえんだよ」
そう言ってから、つい先日自分が壊してしまったことを思い出して落ち込んでしまったりするが、ともかく気を取り直して表に出る。
「あー、ほれ」
ずい、と傘を差し出す播磨。
「そんな……いいわよ別に。一人で帰れるし」
「そう言われればそうなんだけどな、なんかあったら寝覚めが悪い」
なによその理由、とは思ったものの、悪気はなさそうな播磨の様子に、
「分かったわよ。じゃ送らせてあげる」
素直じゃないのが沢近愛理。
「あげるってなあ、お前……」
「ほら、さっさと行くわよ」
差し出された傘を広げて颯爽と歩き出す。それを見て播磨も慌ててついていく。
で。
「……」
「……」
やっぱり無言である。
コイツと話すこと、つってもなあ、と思っていた播磨だったが、ふと見ると沢近が何かを言いたそうな素振りをしている。
「どうした?」
「……なんでもないわよ」
一旦はそう言ったものの、しばらくしてから思い詰めたような表情で尋ねる。
「播磨君さ……クリスマスプレゼント、って欲しい?」
「はあ?そりゃもらえるもんならもらいてえな」
あまり深く考えずに答える播磨。
「そう……」
じゃあ、と言ってバッグから小さな箱を取り出す沢近。その間になされた葛藤については、あえてここでは語らないこととする。なんかこう、容量的に。
「あげるわ、これ」
「……は?」
さすがの播磨も心底驚いた様子である。会話の流れからすれば不自然ではないのだが、
(コイツが?俺に?どういう風の吹き回しだ?)
また新手の嫌がらせだろうか、といらぬ警戒をする播磨。その態度にかちんときたのか、
「いるの?いらないの?どっちよ」
「いやいやいやいやありがたくいただきますよ、ハイ」
押しに弱い男である。
「それじゃ、はい」
そう言って、小箱と一緒に傘も差し出す。
「おい、」
「言ったでしょ。一人で帰れるわ」
有無を言わさず受け取らせると、小走りに駆け出す。
「ちょ、待てよおい」
その声に反応したのかどうか、数メートル先で振り返り、
「Merry Christmas!」
流暢な発音でそう言ってから、くるりと身を翻して雪の中を駆けていった。
「あー……」
所在なげに頭をぽりぽりとかく播磨。その手にはラッピングされた小さな箱。
(どうすっかなあ……)
と思いつつ、仕方がないので家路につく。
「アイツも差してなかったしな」
ぽつりとそう言って、傘を畳んで、雪道をてくてくと歩く。
冷たいはずのその雪が、何故か播磨にはどこか暖かく感じられた。
◆
後日、もらったもんは使わねえとな、とプレゼント――アンティークの懐中時計――を持ち歩く播磨がいただとか、年明けには差出人の名前がない年賀状が届いただとか、それはまた、別の話。