Ordinary Days
ごーん、と鐘の音が響く。
時計の針はじきに重なろうとしている、新しい年の始まる少し前。
「なんだかわくわくするよね」
「そうかしら?日付が変わるだけ、何も特別なことじゃないと思うけど」
「えー、そうかなあ……」
「気にすんなって、塚本。わざわざ出てきたってことは沢近もホントは楽しみなんだよ」
「あれ?愛理ちゃんそうなの?」
「それは……だって誘われたら受けるのが礼儀でしょう?」
「恥ずかしがり屋さん」
「っ……」
天満、愛理、美琴、晶。いつもの面々は矢神神社に来ていた。
「でも本当にあまり人がいないわね、ここ」
気を取り直して言う愛理に、昔っからそーなんだよな、どういうわけかさ、と答える美琴。
「変な神様でも祀っているのかしら」
「晶ちゃん、さすがにそれは……」
(変な神様、ねえ……)
そのやりとりを横目に笑いをかみ殺す美琴。実際祀られているそれはともかく、彼女の出会った『神様』は確かに変なヤツだった。いろいろ苦労してるんだよな、頑張れ、と心の中で応援しておく。
「でも今年ももう終わりなんだよな……」
その辺りの諸々はさておいて、一年を思い返しつつそう口にする。
「そうね、なんだかいろいろありすぎてずいぶん早く感じたわね」
「いろいろって何かしら」
大抵の『いろいろ』は知っているのにあえて訊く晶。
「……あれよ、旅行とか、林間学校とか」
「そうだよね、楽しかったよね」
言外の意味をくみ取る、などという発想のない天満。ちなみに晶は、ふうん、といつものポーカーフェイス。
「私はみんなと仲良くなれてよかったよ」
「まあ、そうね」
「そうだな」
「ええ」
裏表のない言葉に頷く一同。
そうこうしている間に。
「そろそろね」
「ん?もうか。にしても時計も見ずによく分かるな」
「鐘」
「……まさか数えてたの?晶」
「当然」
「うわ、凄いね」
そして。
ごーん、と鐘の音が響く。
百八つ目、年の移り変わりを告げる音色。
「おめでとうっ!」
四人の声が重なる。
「さて、それじゃ早速願い事、と」
「私は奮発しちゃうもんね!500円!」
「また凄いのか凄くないのか分からないわね」
「大事なのは気の持ちよう」
一列に並んで目を閉じる。
「――――――」
それぞれがそれぞれに願い事。
例えばそれは今一つ掴み所のない想い人のことだったり。
なかなか会えない父親のことだったり。
いつでも近くにいた幼馴染みのことだったり。
大切な親友達のことだったり。
そんなそれぞれの願い事。
「――よし、と」
「ねえねえ、何をお願いしたの?」
「企業秘密」
「誰が企業よ……まあ、教えたら面白くない、っていうのも確かよね」
「うーん……そうだね」
どっちにしろ聞かなくても天満のは分かるけどね、という美琴の言葉にあたふたする天満。
その仕草に誰ともなく笑みがこぼれる。最初はむー、などと言っていた天満も、いつしかその温かな笑みの輪に加わって。
◆
そんな風にして。
彼女達のごく普通の、だからこそかけがえのない日常がまた、幕を開ける――