talk.
「……ふう」
飲み干したティーカップをソーサーの上に戻すサラ。かちゃり、という音が誰もいない部室に小さく響く。
昼下がりの部室。これといった活動内容も束縛時間もないこの部活、そのせいで常に誰かが何かをしていることが多いのだが、今ここにいるのは彼女一人。
「……」
頬杖をついて外を眺めるその視線は、彼女にしては珍しくどこか憂鬱な気配を含んでいる。
と、その視界の中にすっと飛び込んでくる黒い影。
「あ、伊織」
八雲の飼い猫たるその黒猫は、挨拶も遠慮も一切なしに開いた窓から入ってきてその窓際で丸くなる。
「ふふ、お前はいいね。素敵なご主人さまがいて」
その言葉に、初めて伊織がサラの方を向く。にゃおう、というその声はどこか疑問詞を含んでいるように彼女には聞こえた。
「……私?そうだね、もちろん八雲は私の大切な友達だよ。でもね」
でも。
「いつか八雲が私のそばからいなくなっちゃうんじゃないかな、なんて」
そう思ったりするんだ、と寂しげな笑みをするサラ。
「最初はね、私と同じ独りぼっちみたいに見えたから、この人なら友達になってくれるんじゃないかな、なんて思ってたんだ」
ちょっとズルイよね、と言うサラに、伊織はいつも通りに無反応。ただ、その顔はちゃんとサラの方を向いている。
「話してみたら、やっぱり八雲はとってもいい子で、すごく素敵でね。ちょっとずれてるところもあるから、なかなかみんな気がつかなかったんだけど」
にゃー、と伊織が肯定の鳴き声を出す。
「でも最近はいろんな人がそれに気がついてきたみたい……あ、花井先輩は前から、かな。ちょっとやり方は大袈裟だけど、ちゃんと八雲を大切にしたい、って思ってくれてるみたいだし、播磨先輩は八雲のいいお兄さん代わりになれそうだし」
そこでまた寂しげな笑み。
「それは嬉しいんだ、とっても。だけどなんだか……」
八雲を取られちゃうみたいな気がして、と伊織を見つめるサラ。
「……ワガママだよね、私」
答えず黒猫は少女の瞳をじっと見つめる。
「あ……」
そして入ってきたときと同じように、すっと起き上がって窓の外へと出て行く。
「……また嫌われちゃった、かな」
「考えすぎ、だよ」
ぽつりと呟いたサラの背にそんな言葉がかけられる。
「あれ、部長いつのまに」
ついさっき、とサラの向かいに腰掛ける晶。
「もしかして聞かれちゃいました?今の」
「そんなつもりはなかったんだけどね」
ごめん、と言う晶に、八雲には内緒ですよ、と苦笑いするサラ。
「でも部長、考えすぎ、って……」
「あなたたち二人、よく似てると思う」
ちょっと唐突なその言葉にきょとんとするサラ。
「塚本さんもね、あなたみたいになりたい、って言ってたことがあるんだよ」
「……八雲が?」
そう、と頷いて晶は続ける。
「私と違ってちゃんとみんなと話せるし、羨ましいって」
「……それで、部長はなんて言ったんですか?」
「『塚本さんは塚本さんらしく、自分のやり方でいいと思う。きっと彼女も、無理なんてしていないあなたのことが好きだと思うから』、そう言ったよ」
どうかな、とサラを見つめる。
「……さすが部長、大正解ですよ」
答えて微笑むサラ。その笑みに、暗い影はもうない。
「私はあなたたちならずっと上手くやっていけると思ってる。それとも」
塚本さんはそんなに信用できないかな、と問う。
「そんなことありません。八雲は私の大切な、大事な……友達ですから」
それなら安心、とお茶を入れに立つ晶。
「塚本さんもね、同じようなこと言ってたよ」
「そうですか……」
「それに」
「それに?」
「あなたたちは独りぼっちなんかじゃないよ。少なくとも、私はちゃんと友達だと思ってる」
「……ありがとうございます」
お礼を言われるようなことじゃないよ、と晶。いつもの淡々としたその声が、サラにはとても温かく聞こえた。
「でも部長、珍しいですね。普段はこういうことあまり言いませんよね」
自分で考えなさい、みたいな感じで、と尋ねるサラに、晶は一言。
「特別大サービス」
やっぱり淡々としたその声がなんだかとてもおかしくて。
サラは、笑った――